2012年02月10日

冒険の収支はマイナスか?

昨年末から先月初めにかけて崩し始めた積みゲーがようやくエンドを迎えつつあるのですが、今回ゴールにたどり着いたのが恋ではなく -It's not love, but so where near.(しゃんぐりらすまーと)です。寡作ながらその硬派なシナリオが評価されている早狩武志と人気絵師トモセシュンサクのコンビはやや異色といえる組み合わせでどんな化学変化が起きるか楽しみにしていたのですが、そういった部分での期待はやや外された格好となりました。その分全体的な評価も辛めとなってしまったのですが、これはライターの構成の仕方がエロゲー慣れしているぼくの頭では付いていけなかったことにあるでしょう。

(ここからネタバレ)

潮風の消える海に(light)で、青臭いといっても言い過ぎでないくらいの少年少女たちの心揺れる動きを描いた早狩氏らしく、今作も大人になりきれない若者たちの群像劇を描いています。ただ前作と違うのは動かす登場人物の多いところ。といっても潮風の消える海にと比較して今回登場人物が増えた割にはプレイ後の満足感は得られなかったように思えてならないです。
これは最終ルートでHシーンが存在しないという構成もあるのですが、それよりもこの最終ルートで早狩氏の意気込みがどうも空回りしてしまった印象を持ってしまったからです。

このゲームで早狩氏は序盤から槙島祐未と八坂典史という二人の視点から物語を進めていきます。祐未と典史の言動が共感を呼ぶものかどうかは別問題として、目まぐるしく変わる視点と心理描写が二人の心情をプレイヤーに印象付けるのに成功しています。このあたりは早狩氏の真骨頂といえるでしょう。
そして最終ルートに入ると早狩氏はエロゲーにおいて意欲的ともいえる描写で物語を進めていきます。それが主人公である祐未と典史だけでなく主要登場人物ほぼ全員の視点から見つめる(次々と入れ替える)ことによって、若者たちの群像劇という側面を強く見せようとしたのではないかと思います。
ただこの手法を正直ぼくは買っていません。というのも登場人物の内面を描くことに拘ったことで、人物の内面に秘めた部分を必要以上にプレイヤーに知られてしまうことになってしまったから。
このゲームがラストのどんでん返し等に期待するようなゲームでないことは分かっています。それでも物語の興味ともいえる登場人物の奥底に秘める謎までプレイヤーに提示してしまっては、ラストが物足りなく感じられてしまっても仕方ないかと思うのです。特に最終ルートに入ってから登場する堤蓉子や桐生省吾の視点で物語を進めるのは、彼らの内面を暴露する結果につながって結果物語の核心といえる部分をラストはるか手前で曝け出してしまいました。もちろん早狩氏はそういったことも計算済みだったのでしょうが、それでも正直その計算は間違いだったようにしか思えないのです。これは最終ルートを見る限り早狩氏が登場人物全員の内面を掴み切っていなかったのではとぼくには思われてならなかったことによるものですが、それならばこのような冒険をするよりは、手堅い手法(少なくとも物語の途中で蓉子の内面に触れる必要はなかった)を採った方がもう少し終盤までプレイヤー(ぼく)の興味を惹きつけれたと思うのです。

というわけで中盤までの貯金を最終ルートに入って吐き出してしまった格好になるわけですが、それでも全体的に見てそれなりに楽しめたのは事実です。ただ早狩氏がトモセ氏の魅力であるエロ絵を活かせたかという部分ではやはり苦言を呈さなければいけません。というよりあのトモセ絵でここまで抜けないというのは意外なくらいだったのですが、これは序盤から祐未の視点を多く描写してしまったことによるものだと思うのです(主人公だから仕方ないかもしれませんが)。早狩氏のヒロインらしく祐未はお世辞にもプレイヤーの萌え心をくすぐるようなタイプでないわけですが、女性主人公視点のゲームで抜けないのは大抵このようなタイプがヒロインだった場合がほとんど。そういった意味では早狩氏とトモセ氏の組み合わせはミスキャストといってよく、あのトモセ絵を活かせなかったといったことを考えると厳しい言葉になるのですが早狩氏の意気込みが空回りに終わったと言わざるを得ないとぼくは思うのです。

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