2021年02月03日

ミステリーとしては買えないワケ

今回は、昨年発売されたゲームで非常に評価が高かった さくらの雲*スカアレットの恋 (きゃべつそふと)について語ろうかと思います。
といっても評価が高いだけあって、批評空間を見てもレビュー数が多く、今更ぼくごときが語っても仕方ないので、少し違う方向からこのゲームを見てみたいと思います。

このゲームはメーカー曰く「100年の時を超えるミステリィAVG」と紹介しているように、ミステリィを全面に出しています。このゲームが発売された同月には同じくミステリィを冠した鍵を隠したカゴのトリ -Bird in cage hiding the key-(Cabbit)があって、つい比較してしまうのですが、世間的な評価はさくらの雲*スカアレットの恋が上なようです。ただミステリィ部分だけを取り出したなら、前に紹介した鍵を隠したカゴのトリの方がぼくは好みなのです。
というのもさくらの雲*スカアレットの恋の中で一番ミステリィ色の強いメリッサルートがどうにも買えないからです。


(ここからネタバレ)


このルートでは、閉鎖された寝台列車の中で起きた殺人事件について描かれています。クリスティの名作ばりの設定には、探偵小説ファンにとって大いに引き込まれるものがあるかと思いますが、その中で起きた殺人事件だけでなく、行先不明な終着駅がどこかを推理するという謎についてもプレイヤーは頭をひねることになります。
そんな閉鎖された空間で起きる事件ということで、乗組員を含む列車の乗客以外に犯人はありえないわけですが、そんな仰々しい設定は別として、「オリエント急行殺人事件」のように、列車が雪に閉ざされて外部とほぼ連絡不能になっているわけでないのに、殺人事件が発生しても外部の捜査機関(警察)の介入がないのはあまりに不自然です。ただ時代が現代でなく大正時代を模している(まして歴史改変がテーマというわけで、本当の大正時代かどうかすら分からない)というわけで、その点については目をつぶらなければいけないかもしれません。それを差し引いても時代設定に関わらずぼくがミステリィにおいて一番重要視している部分があまりにお粗末でげんなりしてしまいました。

このミステリー列車の企画者は、この列車を企画した(走らせた)目的を、未来を予知できる能力を持った人物を探すためとしています。企画者はこのゲームのほとんどの登場人物にミステリー列車への招待状を送ります。
ではなぜ企画者は未来視できる人物が招待状を送った人物の中に必ずいると知ったのでしょうか?また犯人は未来視できる人物が自分より年齢が同じもしくは年下ということが分かっていたはずで、なぜ明らかにそれに該当しない年齢の中森氏に招待状を送ったのでしょうか?シナリオライターはこれらの疑問には答えていません。
また企画者の一人は主人公がたびたび発生する事件を先回りして阻止することから、主人公が過去に会ったその未来視できる人物ではないかとあたりを付けていたと言いますが、それならこんな仰々しい手法をとらなくても、もっといい方法があったと思うのは当然のことでしょう。
そんないいかげんな計画だったから、破綻して事件が起きたとライターは強弁するかもしれないのですが、いくらこの列車の企画者が富豪であったとしても、その未来視できる人物を捜す目的が金儲けのためとしたら、こんな計画に疑いもなく資金を提供するというのはやはり納得がいきません。

ただ正直このルートは大団円となる所長ルートへの繋ぎとして存在するもので、ある人物の異能力をプレイヤーに提示するに過ぎないルートであり、ゲーム終盤の面白さを考えれば大きな瑕ではないと弁護することもできます。それでも実はこのルートに入るまでの透子ルートや蓮ルートの冗長さにぼくは正直飽き飽きしていたのですね。その上、このメリッサルートを見せられたものですから、正直投げ出したくなったのは事実です。まあ所長ルートにおいて一応これまで散りばめた伏線を回収しているのは、さすがともいえますし凡作でない魅力を備えているともいえますが、残念ながらミステリーとしては買えないというのがぼくの見解です。

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