2016年09月21日

架空スポーツの妙

先週のある日、勤務中に肋間神経痛のような痛みを感じました。
その時は軽くストレッチしたりして気を紛らわせていたのですが、直に悪寒がするようになりもしやと思って、皮膚科に受診したところ、案の定帯状疱疹でした。
今月中旬に査察があり、その際に閲覧される書類をまとめたりと、いつも以上にストレスの溜まる作業を行っていたことも原因だったのでしょうが、60代に1番よく罹患するといわれる疾病に罹るとはかなり免疫力が弱っていたのだろうと思ったのですが、1番ぼくを悩ませたのが合併症と思われる片頭痛が強烈だったこと。このままでは恒例の予想記事が上げられないのではと焦りました。
結局皮膚科の勧めでこの地区で代表的とされる基幹病院で精密検査することになったのですが、結果は悪かったものの幸い入院するまでの数値ではなく、神経内科で処方された鎮痛剤が効き頭痛が治まり、慌てて予想記事を仕上げるとともに積みゲーも崩し始めることになりました。といっても帯状疱疹自体はまだ治まってなくて、寝返りも打つのも痛い状態なのですが・・・

そんなわけで、かなり前からプレイを始めていた蒼の彼方のフォーリズム(sprite)を、ようやくクリアすることが出来ました。何せプレイを始めたのがまだアニメの本放送がTVで流れていた頃(といってもまともに見たことはない・・・)ですから、1番最初にクリアした真白ルートなんてほとんど記憶に残っていない始末で、思い出そうとすると再び頭痛がぶり返してくるような気がするのですね。
ではなぜこんなに時間が掛かってしまったのかというと、ぼくのプレイ速度が遅いこともあるのですが、2番目にプレイした明日香ルートはともかく、3番目にプレイした(そして1番好みのヒロインだった)莉佳ルートがどうもぼくの好みのストーリーでなく、進行が滞ってしまったことによるものが大きいです。

(ここからネタバレ)

このゲームにはFC(フライングサーカス)という架空のスポーツが登場します。正直理解力の低いぼくの頭脳ではこのスポーツのルールについてクリアした現在でもとよく分かっていないのですが、現代に残っているスポーツでなくわざわざ架空の競技を用意したところに、制作者の巧妙さが現れています。このあたりは同様にスポーツを題材にしたワルキューレロマンチェ~少女騎士物語を思わせるところがあります。あのゲームはジョストというマイナーなスポーツが登場するのですが、それよりも割り切りの良さは上です。
こうした万人に膾炙していないスポーツ(架空のスポーツですから当然ですが)を題材にする上で、まずストーリー的に有利に感じるのは、全くの素人がわずかな期間で急成長してもそれなりの説得力が読者に与えられることでしょう。もしこれがレスリングやフェンシングのような良く知られている競技ならば、全くの素人がわずかな期間修練したからといって一流選手と互角に相対するなんてストーリーを書いたらご都合主義と云われるに決まっています。ところがよく知られていないスポーツだとしたらそれだけ選手層が薄いのだから、素人が一流(と思われている)選手と互角に戦ったとしてもそれほど不自然ではありません。それでもご都合主義と腐す人はいると思いますしその意見も分かるのですが、こうした制作者側の苦心さを思えば、ぼくはそれほど腐す気にはなれないのです。

蒼の彼方のフォーリズムの倉科明日香はFCというスポーツをどんどん吸収していって一流選手に成長していくのですが、彼女の急成長さはFCに早くして目覚めそして挫折した主人公と相反する存在として必要だったのでしょう。(そういえばワルキューレロマンチェ~少女騎士物語のメインヒロインも同じような役割を与えられていました。)そんな明日香ルートには乾沙希というライバル役が登場します。彼女は序盤明日香たち久奈浜学園FC部のよい目標であり一流FC選手である真藤を内容で圧倒しての勝利を収めます。彼女の突然の台頭は明日香らFC部に波紋を残すわけですが、大まかにいうとヒロインのルートはここから分かれます。

まず明日香ルートはその強敵である沙希と真っ向から対峙していくことになります。沙希の参謀であるイリーナの盤外作戦にも負けず主人公と2人立ち向かっていくシナリオはスポ根ドラマの典型といえるでしょう。ただぼくはこのルートはなかなかのデキとは思いますが絶賛というほどではなかったと感じたのですね。その理由は必要以上にイリーナを嫌味なキャラに仕立ててしまったことによると思うのです。イリーナの目的が(かつてFCで活躍した)主人公の現役復帰にあったとしても、それがこのシナリオに上手く調和したとは言えなかったと思うのです。
莉佳ルートは明日香ルートに類する存在といえるかと思います。ただ彼女にあてがわれたライバル役はかつて彼女の親友だった黒渕霞です。彼女はイリーナの盤外作戦なんて生易しいものでなく、FCの競技中に堂々と反則技を使ってきます。そんな彼女を破るべく莉佳は他校の主人公とともに特訓するという展開は明日香ルートとほぼ同じ。ただ明日香ルートより明らかに劣るように思えるのは、沙希やイリーナがFCというスポーツの枠をあくまで踏み出さず勝負を挑んでくるのに対し、黒渕は最初からFCというスポーツのルールを度外視する完全な悪役として描かれていること。スポーツものでこうした典型的な悪役(ヒール)を登場させるというのは、創作するにおいて非常にラクなのですね。ただこれは善玉側に感情移入してしむ第三者の憎悪を煽りシナリオにひきつける上では有効なのですが、(ぼくのように)そうした手法を嫌う人も少なからずいることを忘れてはいけない。まして審判が(まるでプロレスのレフリーのように)反則に対して盲目に設定してしまっては、黒淵に挑む明日香を止めきれず結果怪我させることになった主人公の無能さに目がいってしまうことになっても仕方ないと思うのですね。

その2つのルートと比べ、みさきルート(ついでにいえばぼくが記憶する限り真白ルートも)はやや様相が違っています。
このルートは前2つと比べ明確な敵役は登場しません。もちろんみさきに立ちはだかる存在というのは登場するのですが、それよりもみさきに対峙するのは、明日香や乾沙希ではなく自分自身の心の弱さというのがこのルートの主眼だからです。この弱さを克服するために主人公の叱咤激励のもと練習を重ねる・・・といった流れはやはりスポ根ドラマによくある流れなのですが、通り一遍の単純な敵役を登場させなかったところにこのルートの価値がったと思うのです。
主人公がFCを辞める切欠となったのがみさきとの遭遇だったというのは出来すぎなような気がしないでもないですが、主人公が本当の意味でFCの選手といて立ち直れる唯一のルートと考えると明日香ルートよりもこちらの方が正ルートのような気がしないでもないくらいです。

ただ正直このゲームに対し、ぼくは絶賛とまでの評価までは至らないです。
主人公がFC競技者として嘱望されていた割りには挫折する切欠はたわいなく、また明日香が(天才とはいえ)いとも容易く地区のトッププレイヤーになるところを見ても、FCというスポーツは層が薄く底の浅いものではないかと思ってしまったからです。ヒロインと一緒に空は飛びたい・・・とは思わせてもFCを楽しみたい、観戦したいという気にはならなかった。これはFCというルールについてゲームに表れた通り一遍の部分でしか理解することができなかったことが一因と思うわけで、もしこのゲームの初回特典にFCのルールブックなるものが添付されていたとしたら、もっとFCの面白さを理解できたかもしれず評価ももっと上がったかもしれませんね。

この記事へのトラックバックURL

http://sakanaeye.mediacat-blog.jp/t118340
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい